1.遺産分割に期限はないが、成立には相続人全員の合意が必要

亡くなった方の遺産は、相続人全員の共有の状態になります。これを一つひとつ、誰がどれを受け取るのかを決める手続が遺産分割です。
1-1.遺産分割協議そのものに、法律上の期限はない
遺産分割協議には、原則として「いつまでに」という期限がありません。ただし、時間が経つほど、次のような不都合が起きやすくなります。
- 相続人がさらに亡くなり、話し合いに加わる人が増える
- 預貯金や不動産の管理をめぐる不信感が強くなる
- 相続開始から10年を過ぎると、寄与分・特別受益(後述)の主張が原則としてできなくなる(令和5年4月施行の民法改正による。施行前に始まった相続には経過措置があります)
1-2.遺産分割とは別に進む期限もある
遺産分割が終わっていなくても、次の期限は進みます。
| 手続 | 期限の目安 | 相談先 |
|---|---|---|
| 相続放棄・限定承認 | 相続を知った時から3か月 | 弁護士 |
| 相続税の申告・納付 | 亡くなったことを知った日の翌日から10か月 | 税理士 |
| 相続登記の申請 | 不動産を相続したことを知った日から3年 | 司法書士 |
※相続税・登記の取扱いは、一般的な説明にとどまります。個別の申告や申請は、税理士・司法書士の業務領域です。遺産分割がまとまっていない場合の取扱いも含め、それぞれの専門家へご確認ください。
1-3.相続人が一人でも欠けた合意は、有効とされない
遺産分割協議は、相続人全員で行う必要があります。連絡のつかない人を除いて決めたり、多数決で決めたりしても、有効な協議とはされません。合意ができたら、内容を「遺産分割協議書」にまとめ、全員が署名・押印するのが一般的です。
2.進まない原因ごとの対処:応じない・連絡がつかない・分け方で揉める

「進まない」といっても、原因によって取るべき手段が変わります。代表的な3つを見ていきましょう。
2-1.相続人が協議に応じないとき:書面で呼びかけ、調停も視野に
まずは、話し合いの場を持つよう、書面(手紙など)で丁寧に呼びかけます。記録が残るので、後の手続でも役立ちます。それでも応じない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てる方法があります。調停については、5章で説明します。
感情的な対立が強いときは、相続人どうしで直接やり取りを続けるより、第三者を挟んだほうが落ち着くことも少なくありません。
2-2.連絡が取れない・疎遠な相続人がいるとき:まず所在を調べる
長年会っていない兄弟姉妹や、前の配偶者との間の子が相続人に含まれるケースがあります。その場合の一般的な流れは次のとおりです。
- 戸籍を集めて、相続人が誰かを確定する
- 戸籍の附票(住所の移り変わりが分かる書類)などで、現在の住所を調べる
- 判明した住所へ、手紙で連絡する
住所が分かっても反応がない場合や、そもそも所在が分からない場合は、家庭裁判所の手続を利用する方法があります。所在不明の人については、不在者財産管理人を選ぶ手続が使われることがあります。事案によって適切な手段が異なるため、早めに弁護士へ確認することをおすすめします。
2-3.認知症や未成年の相続人がいるとき:代わりに手続する人が必要
判断能力が十分でない相続人がいる場合は、成年後見人などが代わりに協議に参加するのが一般的です。相続人に未成年の子がいて、親も同じ相続人であるときは、家庭裁判所に特別代理人を選んでもらう必要がある場合があります。
2-4.分け方で意見が割れるとき:争点を整理する
「不動産を売るか残すか」「生前に多くもらっていた人がいる」「介護を担った人の貢献をどう見るか」など、分け方で揉めるケースも多くあります。何が争点なのかを整理するだけでも、話し合いが前に進むことがあります。次の3章と4章で、基準となる考え方を説明します。
3.分け方の基準は「法定相続分」:寄与分・特別受益で変わることも
3-1.法定相続分:法律が定めた分け方の目安
法定相続分とは、民法で定められた、相続人ごとの取り分の目安です。遺言がない場合の基準になります。ただし、相続人全員が合意すれば、法定相続分と違う分け方もできます。
| 相続人の組み合わせ | 法定相続分 |
|---|---|
| 配偶者と子 | 配偶者1/2、子全員で1/2(複数なら等分) |
| 配偶者と親(子がいない場合) | 配偶者2/3、親全員で1/3 |
| 配偶者と兄弟姉妹(子・親がいない場合) | 配偶者3/4、兄弟姉妹全員で1/4 |
3-2.計算例:遺産4,800万円を、配偶者と子2人で分ける場合
遺言はなく、法定相続分どおりに分けるとした場合の金額です。
- 遺産の総額
- 4,800万円
- 配偶者(1/2)
- 2,400万円
- 長男(1/2 × 1/2 = 1/4)
- 1,200万円
- 二男(1/4)
- 1,200万円
※実際の遺産分割では、不動産の評価額や、次に説明する寄与分・特別受益によって金額が変わります。
3-3.特別受益と寄与分:法定相続分を調整する考え方
法定相続分どおりでは不公平になる場合に、調整する仕組みがあります。ここでは概略だけをご紹介します。
- 特別受益:生前に、結婚資金・住宅購入資金などの贈与を受けていた場合の、その分の考慮
- 寄与分:被相続人の事業を手伝った、介護で財産の維持に貢献したなど、特別の貢献をした人への上乗せ
どちらも、認められるかどうか、金額をいくらとみるかは、事情によって大きく異なります。証拠(通帳、介護の記録など)が重要になることが多いとされています。
これらを反映した取り分を「具体的相続分」と呼びます。なお、相続開始から10年を過ぎると、原則として具体的相続分を前提にした分割を求められなくなります。気になる方は、早めに確認しましょう。
4.不動産の分け方は4種類:現物・代償・換価・共有
遺産の中に自宅などの不動産があると、「きっちり半分に分ける」ことができず、話し合いが止まりがちです。分け方には、主に4つの方法があります。
4-1.4つの分け方の比較
| 方法 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 現物分割 | 不動産は一人が取得し、他の人は預貯金などを受け取る | 遺産全体のバランスが取れないことがある |
| 代償分割 | 不動産を取得した人が、他の相続人へ代償金(お金)を支払う | 取得する人に支払える資金が必要 |
| 換価分割 | 不動産を売却し、売却代金を分ける | 思い入れのある家を手放すことになる。売却に税金がかかる場合がある(税理士に確認) |
| 共有 | 複数人の共有名義にする | 売却や建替えに全員の同意が必要になり、将来の相続でさらに複雑になりやすい |
※共有は、問題を先送りにしてしまう面があるため、一般には慎重な検討が必要とされています。登記の手続は司法書士にご確認ください。
4-2.計算例:実家を長男が取得し、二男に代償金を払う場合
相続人は子2人(長男・二男)で、法定相続分は各1/2です。長男が実家に住み続けたいと希望しています。
- 遺産の総額(3,000万円+1,000万円)
- 4,000万円
- 各自の取り分(1/2)
- 2,000万円
- 長男の取得:実家
- 3,000万円
- 二男の取得:預貯金
- 1,000万円
- 長男が二男へ支払う代償金(2,000万円−1,000万円)
- 1,000万円
※不動産の評価額は、時期や評価方法によって異なり、評価をめぐって意見が割れることもあります。上記は、全員が3,000万円と合意した場合の例です。
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5.協議がまとまらないときは、調停から審判へ
相続人どうしの話し合いで合意できなければ、家庭裁判所の手続に進みます。大まかな流れは次のとおりです。
相続人どうしの協議
相続人全員で話し合います。合意できれば、遺産分割協議書を作ります。
遺産分割調停
家庭裁判所で、調停委員が間に入り、話し合いを進めます。合意すれば調停が成立します。
遺産分割審判
調停が成立しないとき、自動的に審判に移ります。裁判官が分け方を決めます。
5-1.調停:裁判官と調停委員が間に入る話し合い
調停は、裁判のように勝ち負けを決める場ではなく、話し合いによる解決を目指す手続です。相続人が同じ部屋で顔を合わせず、交代で調停委員に話をする形で進むのが一般的とされています。
調停は、原則として相手方となる相続人の住所地の家庭裁判所に申し立てます。相続人全員が合意すれば、別の家庭裁判所を選べる場合もあります。
5-2.調停にかかる期間と費用:事案によって大きく異なる
期間は、争点の数や相続人の人数によって異なります。数か月で終わる場合もあれば、1年以上かかる場合もあるとされています。調停の期日は、おおむね月に1回程度のペースで開かれるのが一般的です。
裁判所に納める費用は、収入印紙や郵便切手などで、数千円程度とされています。ただし、金額は変わることがあるため、申立先の裁判所でご確認ください。弁護士に依頼する場合は、別途弁護士費用がかかります(6章参照)。
5-3.審判:調停がまとまらなければ、裁判官が決める
調停が成立しない場合は、手続が自動的に審判へ移ります。審判では、法定相続分を基本としつつ、遺産の内容や各相続人の事情を踏まえて、裁判官が分け方を決めます。
審判の内容に不服がある場合は、決められた期間内に、不服申立て(即時抗告)をする方法があります。
5-4.調停に進む前に、整理しておきたいこと
- 相続人が誰か(戸籍で確認した結果)
- 遺産の一覧(不動産、預貯金、株式、借金など)と、おおまかな評価額
- 生前贈与や、介護・事業の手伝いなどの事情を示す資料
- 自分がどうしたいか(希望する分け方と、譲れない点)
6.弁護士に頼むメリットと費用の目安
6-1.任せられること:相続人との交渉から調停・審判まで
- 戸籍の収集と、相続人・遺産の調査の整理
- 応じない相続人や、疎遠な相続人との連絡・交渉
- 特別受益・寄与分の主張の整理
- 調停・審判の申立てと、期日への同席
相続人どうしで直接やり取りする負担が減り、感情的な対立を避けながら手続を進められる点が、弁護士に依頼するメリットの一つです。
6-2.当事務所の費用の目安(税込)
遺産分割をはじめとする相続分割・遺留分請求の費用は、次の2つのパターンから選べます。
| パターン | 着手金 | 報酬金 | 日当 |
|---|---|---|---|
| ① 着手金なし | 0円 | 経済的利益の22% | 11,000円 |
| ② 着手金あり | 330,000円 | 経済的利益の17.6% | 11,000円 |
※経済的利益とは、手続によって実際に得られた金額のことです。別途、実費(郵送料・印紙代など)がかかります。事案によって異なる場合があるため、詳しくは無料相談でご案内します。
- パターン① 報酬金(1,000万円 × 22%)
- 220万円
- パターン② 着手金
- 33万円
- パターン② 報酬金(1,000万円 × 17.6%)
- 176万円
- パターン② 合計
- 209万円
※経済的利益が約750万円のとき、2つのパターンの合計は同額になります。見込まれる金額が大きいほど、②が有利になります。
7.遺産分割が進まないときのよくある質問
Q.遺産分割協議に期限はありますか?
A.遺産分割協議そのものには、原則として法律上の期限はありません。ただし、相続放棄の期限(3か月)、相続税の申告期限(10か月)、相続登記の申請義務(3年)など、別の期限は進みます。また、寄与分・特別受益の主張は、相続開始から10年を過ぎると原則としてできなくなるとされています。
Q.相続人の1人が話し合いに応じないときは、どうすればよいですか?
A.まずは書面などで協議を呼びかけ、それでも進まなければ、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる方法があります。調停では、調停委員が間に入って話し合いを進めます。
Q.連絡が取れない相続人を除いて、遺産分割を決められますか?
A.決められません。遺産分割協議は相続人全員の合意が必要で、一部の相続人を除いた合意は有効とされません。住所を調べて連絡を試み、所在が分からない場合は、家庭裁判所の手続を利用する方法があります。
Q.遺産分割調停は、どれくらいの期間と費用がかかりますか?
A.期間は事案によって大きく異なり、数か月で終わる場合もあれば、1年以上かかる場合もあるとされています。裁判所に納める費用は、収入印紙と郵便切手で数千円程度とされていますが、詳細は申立先の裁判所でご確認ください。弁護士に依頼する場合は、別途弁護士費用がかかります。
Q.調停でもまとまらなかった場合は、どうなりますか?
A.調停が成立しなかった場合は、自動的に審判の手続に移り、裁判官が遺産の分け方を決めます。審判の内容に不服がある場合は、決められた期間内に不服申立て(即時抗告)をする方法があります。



