1.期限:相続が始まったことを知った日から3か月
相続放棄は、自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ申し出る(申述する)必要があります。この3か月を「熟慮期間」といいます。相続を引き継ぐかどうかを、落ち着いて考えるための期間です。
1-1.起点は「亡くなった日」ではなく「知った時」
数え始めるのは、法律上は「自分のために相続が始まったことを知った時」です。多くの場合は、亡くなったことを知った日と重なります。
ただし、次のように起点が変わる場合があります。
- 疎遠だった親族が亡くなり、その事実を後から連絡で知った
- 先に相続人になる人(たとえば子)が全員放棄したため、次の順位の人(たとえば兄弟姉妹)に順番が回ってきた。その事実を知った時が起点になり得る
起点がいつになるかは、事情によって判断が分かれます。迷うときは、自分で決めつけず、早めに確認しておきましょう。
1-2.数え方の目安と計算例
期限は、起点の日から3か月後の、同じ日付(応当日)が目安です。
2026年4月1日に父が亡くなり、同じ日に連絡を受けて知ったケースです。
- 亡くなった日・知った日(起点)
- 2026年4月1日
- 3か月後の期限の目安
- 2026年7月1日
※期間の数え方は法律上のルールがあり、日数の端数や休日の扱いで結論が変わる場合があります。余裕をもって、期限の数日前までに申述するのが安全です。
被相続人(亡くなった方)の子が相続を放棄し、その事実を、次の順位となる兄弟姉妹が2026年6月20日に初めて知ったケースです。
- 亡くなった日
- 2026年4月1日
- 自分に順番が回ったと知った日(起点の例)
- 2026年6月20日
- 3か月後の期限の目安
- 2026年9月20日
※起点の判断は事情によって異なります。実際の起点がいつになるかは、個別に確認が必要です。
2.3か月のあいだに選べるのは、3つの道
熟慮期間のあいだに、相続人は次の3つから選びます。
2-1.単純承認・限定承認・相続放棄の違い
| 選択肢 | 内容 | 借金の扱い | 主な手続き |
|---|---|---|---|
| 単純承認 | プラスもマイナスも、すべて引き継ぐ | すべて引き継ぐ | 特別な手続きは不要 |
| 限定承認 | プラスの財産の範囲で、借金を引き継ぐ | プラスの財産の範囲まで | 家庭裁判所への申述(相続人全員で行う) |
| 相続放棄 | いっさい引き継がない | 引き継がない | 家庭裁判所への申述(1人でできる) |
2-2.何もしないと「単純承認」になる
3か月のあいだに限定承認も放棄もしなかった場合は、単純承認をしたものとみなされます。つまり、借金があっても、すべて引き継ぐ扱いになります。「何もしなければ放棄になる」わけではない点に注意してください。
2-3.放棄をすると、次の順位の人に相続が移る
相続放棄をすると、その人は初めから相続人ではなかったものとされます。その結果、次の順位の親族(子の次は親、親の次は兄弟姉妹など)が相続人になることがあります。親族間でトラブルにならないよう、放棄したことをあらかじめ伝えておくと安心です。
3.放棄できなくなるおそれがある行為

3か月が過ぎていなくても、特定の行為をすると、相続を認めた(単純承認をした)ものとみなされ、放棄できなくなるおそれがあります。
3-1.相続財産を処分したとき
相続財産の全部または一部を処分した場合は、原則として単純承認とみなされます。処分とは、財産を売る、壊す、使い切るなど、財産の状態や所有者を変えてしまう行為のことです。
- 預貯金を引き出して、自分の生活費や借金の返済に使う
- 被相続人名義の不動産や自動車、価値のある物を売る
- 被相続人の代わりに受け取った財産を、自分のものにする
一方で、財産を保存するための行為(建物の修繕など)は、処分にあたらないとされています。ただし、どこまでが許されるかは、行為の内容や金額によって判断が分かれます。
3-2.迷いやすい場面
- 葬儀費用の支払い:どこから支払ったかや金額などの事情によって、評価が分かれる場合があります。
- 遺品の整理・形見分け:価値のある物を持ち帰ると、処分と評価されるおそれがあります。
- 生命保険金の受け取り:受取人が自分に指定されている保険金は、受取人自身の財産とされ、放棄しても受け取れることが多いとされています。ただし、個別の契約内容で異なります。
3-3.放棄をしたあとの注意点
放棄したあとに、相続財産を隠したり、勝手に使ったりすると、例外的に単純承認とみなされることがあります。また、放棄した人でも、自分が現に占有している相続財産(たとえば住んでいる家)は、次に管理を引き継ぐ人が現れるまで、自分の財産と同じ注意をもって保存する義務があるとされています。
・放棄を考えているあいだは、預貯金の引き出しや、物の売却・処分をしない
・財産の保存に必要な支出をしたときは、領収書などの記録を残す
・判断に迷う行為は、行う前に弁護士へ確認する
4.延ばしたいとき:期限内に「伸長の申立て」をする

3か月では、財産や借金の調査が終わらないこともあります。そのようなときは、熟慮期間の伸長(延長)を家庭裁判所に申し立てる方法があります。
4-1.期限が終わる前に申し立てる
正式には「相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立て」といいます。熟慮期間が終わる前に申し立てる必要があります。被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てるのが一般的です。
4-2.認められるかどうかは事情による
伸長が認められるか、何か月延びるかは、財産の調査の難しさなどの事情を踏まえて裁判所が判断します。申立てをしても、延びないこともあります。申立てには、延ばしたい理由を具体的に書くことが大切です。
2026年4月1日に知った相続について、7月1日の期限までに借金の有無が分からず、6月10日に伸長を申し立てたケースです。
- 当初の期限の目安
- 2026年7月1日
- 伸長の申立て(期限内)
- 2026年6月10日
- 仮に2か月の伸長が認められた場合の期限の例
- 2026年9月1日
※延びる期間は事情によって異なります。上の日数はあくまで説明のための例であり、結果を保証するものではありません。
4-3.伸長のあいだも、財産には手をつけない
期間が延びているあいだも、前の章で説明した「処分」にあたる行為は避けてください。調査には、金融機関への残高照会や信用情報の確認などがあります。何から手をつけるか迷うときは、弁護士に相談しながら進めると安心です。
期限が近い・起点が分からない方は、まずご相談ください
初回相談無料・秘密厳守。期限の確認から、手続きの進め方までご案内します。
5.3か月を過ぎたとき:一律に諦める必要はない
5-1.借金が後から分かった場合
原則は、3か月を過ぎると放棄はできません。しかし、次のような事情があるときは、相続財産(借金を含む)があることを知った時、または通常なら知ることができた時を起点に、放棄が認められた例があるとされています。
- 相続財産がまったくないと信じていた
- そう信じたことに、相当な理由があった(たとえば、被相続人と長く音信不通で、財産の状況を知る手がかりがなかった)
これは裁判例で示された考え方です。認められるかどうかは、事情によって異なります。
5-2.債権者から請求が届いたとき
3か月後に、貸金業者や保証会社などから突然請求書が届くことがあります。このとき、あわてて支払ったり、「払います」と約束したりすると、後の手続きに影響するおそれがあります。まず請求書を保管し、いつ、どのようにして借金を知ったのかを整理して、弁護士に相談してください。
5-3.認められにくい場合もある
亡くなったことや財産の存在を早くから知っていたのに、そのままにしていた場合は、期限後の放棄は難しくなるとされています。遅れても認められる、というものではありません。過ぎたかもしれないと思った時点で、早めに動くことが大切です。
6.手続き:家庭裁判所への申述と、必要書類の目安
6-1.申述先は、亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所
相続放棄は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、「相続放棄申述書」を提出して行います。郵送でも提出できるとされています。
6-2.必要書類の目安
書類は、相続人と被相続人の関係(配偶者、子、兄弟姉妹など)によって異なります。一般的には、次のようなものが必要とされています。
- 相続放棄申述書(裁判所の書式があります)
- 被相続人の住民票の除票、または戸籍の附票
- 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
- 申述する人の戸籍謄本
- 収入印紙(申述人1人につき800円とされています)と、連絡用の郵便切手
※必要書類は、続柄や事情によって増減します。提出前に、申述先の家庭裁判所の案内で確認してください。
6-3.その後の流れ
申述書の提出
書類をそろえて、家庭裁判所に提出します。
裁判所からの照会書への回答
放棄が本人の意思によるものかなどを確認する書面が届くことがあります。内容を確認して回答します。
受理の通知
認められると、相続放棄申述受理通知書が届きます。債権者などへ示す必要があるときは、相続放棄申述受理証明書を別途申請します。
なお、不動産の名義変更(相続登記)や税務の申告は、司法書士・税理士の領域です。放棄の手続きと並行して必要になる場合は、それぞれの専門職にご相談ください。
7.弁護士に頼むと何が変わる?費用の目安
7-1.任せられること:期限の確認から申述まで
- 熟慮期間の起点がいつかの整理と、期限の確認
- 相続放棄申述書や、添付書類の準備
- 家庭裁判所とのやりとりや、照会書への回答の支援
- 債権者から連絡があったときの対応のご相談
期限を意識しながら、必要な手続きを一貫して任せられるのが、弁護士に依頼する大きな違いです。
7-2.当事務所の費用の目安(税込)
| 手続き | 着手金 | 成功報酬 |
|---|---|---|
| 相続放棄 | 55,000円(1人につき) | なし |
※上記は税込の金額です。別途、実費(戸籍などの取得費用、収入印紙・郵便切手代など)がかかります。事案によって異なる場合があるため、詳しくは無料相談でご案内します。
- 着手金(1人 55,000円 × 3人)
- 165,000円
- 成功報酬
- 0円
- 合計(実費を除く)
- 165,000円
※人数分の着手金が必要です。ご家族の状況によるため、詳しくは無料相談でご確認ください。
8.相続放棄の期限に関するよくある質問
Q.相続放棄の期限は、いつまでですか?
A.自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ申述(申し出)をする必要があります。この3か月は「熟慮期間」と呼ばれます。
Q.3か月は、亡くなった日から数えるのですか?
A.法律上は「自分のために相続が始まったことを知った時」から数えます。亡くなった日と同じ日であることが多い一方、疎遠で亡くなったことを後から知った場合や、先順位の人が放棄したことを後から知った場合などは、知った日が起点になり得ます。
Q.3か月以内に判断できないときは、どうすればよいですか?
A.3か月が終わる前に、家庭裁判所へ「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てる方法があります。伸長が認められるかどうか、何か月延びるかは、事情によって異なります。
Q.3か月を過ぎてしまったら、もう相続放棄はできませんか?
A.一律に不可能とは限りません。借金などの相続財産がないと信じていて、そう信じたことに相当な理由があるような場合には、後から事情を知った時を起点に認められた例があるとされています。ただし、認められるかどうかは事情によって異なるため、早めに弁護士へご相談ください。
Q.遺品の整理や預貯金の解約をすると、相続放棄できなくなりますか?
A.預貯金を引き出して使う、不動産や価値のある物を売るなど、相続財産を処分すると、相続を認めた(単純承認)とみなされ、放棄できなくなるおそれがあります。行為の内容によって判断が分かれるため、手をつける前に弁護士へ確認するのが安全です。



