1.きょうだいが揉めるのは「取り分」より「気持ち」が原因のことが多い
相続できょうだいが関わる場面には、実は2つの場合があります。どちらの話をしているのか、最初に整理しておきましょう。
1-1.親の相続:相続人は「子ども同士」
親が亡くなったとき、子どもは相続人(遺産を受け継ぐ人)になります。子が複数いれば、法定相続分(法律が定めた目安の取り分)は原則として同じ割合です。この記事の中心は、こちらのきょうだいです。
1-2.兄弟姉妹が相続人になるのは、子も親もいない場合など
亡くなった方に子も親(祖父母など)もいない場合に、はじめて兄弟姉妹が相続人になります。この場合、兄弟姉妹には、法律上最低限の取り分である「遺留分」がありません。遺言の内容によっては、相続できないこともあります。
1-3.揉める原因と、法律上の考え方
原因は人それぞれですが、よくあるものを整理すると、次の表のようになります。
| 原因 | よくある不満 | 関係する考え方 |
|---|---|---|
| 親の介護 | 自分だけが世話をしてきたのに、取り分が同じ | 寄与分 |
| 生前の援助 | ひとりだけ多く援助を受けていた | 特別受益 |
| 実家の不動産 | 住み続けたい人と、売って分けたい人がいる | 分割の方法 |
| 預金の管理 | 親の通帳を管理していた人が疑われる | 取引履歴の確認 |
金額の大きさよりも、「分かってもらえない」という気持ちが対立を深めることがよくあります。法律の考え方を知ることは、感情と事実を分けて話すための助けになります。
2.親の介護:寄与分が認められるには「特別の貢献」が必要
2-1.寄与分とは:遺産の維持・増加に貢献した分を考慮する制度
寄与分とは、亡くなった方の財産の維持や増加に特別に貢献した相続人について、その分を相続分に上乗せして考える制度です。親の介護も、この対象になり得ます。
2-2.「普通の介護」では認められにくいとされています
子が親の面倒を見ることは、親族としての通常の助け合いと考えられています。そのため、寄与分が認められるには、通常期待される程度を超える貢献が必要とされています。たとえば、次のような点が考慮されるとされています。
- 介護が、仕事を辞めるなど、ほぼ専念する形だったか
- 無償、またはそれに近い状態だったか
- 相当の期間、継続していたか
- 介護の結果、ヘルパー費用などの出費を免れたといえるか
認められるかどうか、金額がいくらになるかは、事情によって大きく異なります。介護の記録(日々のメモ、通院の付き添い、介護サービスの資料など)が残っていると、話し合いの助けになります。
2-3.相続人でない人(子の配偶者など)が介護した場合
介護をしたのが長男の妻など、相続人ではない親族の場合は、「特別寄与料」を相続人に請求できる制度があります。請求できる期間に制限があるとされているため、早めの確認が大切です。
2-4.同居のきょうだいと遠方のきょうだいの、見えている景色の違い
同居して世話をしてきた側は「負担を分かってほしい」と感じ、遠方に住む側は「自分も気にかけていた」「実情を知らされていなかった」と感じていることがあります。どちらかが悪いというより、見えている情報が違うことが多いのです。第6章で、話し合いの進め方を説明します。
3.生前贈与:特別受益は遺産に加えて計算する

3-1.特別受益とは:一部の相続人だけが受けた特別な援助
特別受益とは、一部の相続人だけが、亡くなった方から生前に受けた贈与や、遺言による遺贈などのうち、特別な利益にあたるものです。結婚の際の資金、住宅購入の資金、事業の開業資金などが、例として挙げられます。
特別受益があるとされた場合は、その分を遺産に加えて取り分を計算し、受け取った人の取り分から差し引きます。これを「持ち戻し」と呼びます。
3-2.すべての援助が特別受益になるわけではありません
通常の生活費や、少額の祝い金などは、特別受益にあたらないとされることが多いです。また、被相続人が「持ち戻さなくてよい」という意思を示していた場合は、扱いが変わることがあります。実際にどうなるかは、贈与の内容や金額、当時の事情によって異なります。
3-3.計算例:住宅資金1,000万円の援助があったよくあるケース
父が亡くなり、相続人は長男Aさんと二男Bさんの2人です(母はすでに他界)。遺産は4,000万円で、Aさんは生前に父から住宅資金1,000万円の贈与を受けていました。この贈与が特別受益と認められた場合の計算です。
- 遺産の総額
- 4,000万円
- 特別受益を加えた額(4,000万円+1,000万円)
- 5,000万円
- 1人あたりの取り分(5,000万円 × 1/2)
- 2,500万円
- Aさんが遺産から受け取る額(2,500万円−1,000万円)
- 1,500万円
- Bさんが遺産から受け取る額
- 2,500万円
※架空のケースです。贈与が特別受益と認められるかどうか、持ち戻しが免除されるかどうかによって、結果は変わります。
3-4.生前贈与の証拠が見つからないときは
通帳の振込記録や、贈与の際の書類が手がかりになります。ただ、お金の動きは時間がたつと分かりにくくなるため、気づいた時点で資料を集めておくことが大切です。
4.実家(不動産):分け方は4つ、共有は慎重に
4-1.実家が揉めやすい理由:分けにくく、思い入れも強い
預金と違い、不動産は簡単に等分できません。「住み続けたい」「売って現金で分けたい」「手放したくない」と、きょうだいごとに希望が分かれやすい財産です。
4-2.実家の主な分け方
| 方法 | 内容 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 現物分割 | 不動産をそのまま、特定の相続人が取得する | 他の相続人との間で、金額の差が出やすい |
| 代償分割 | 1人が取得し、他の相続人へ代わりにお金を支払う | 支払える資金があるかが課題 |
| 換価分割 | 不動産を売却し、代金を分ける | 思い入れや居住者の住まいの問題が出る |
| 共有 | 複数の相続人の共有名義にする | 売却や管理の際に全員の同意が必要になりやすい |
「とりあえず共有にしておく」という方法は、問題を先送りにするだけになることがあります。次の代に相続が起きると、関係者が増えて、さらに話がまとまりにくくなるためです。
4-3.計算例:実家に住む長男が代償金を支払うよくあるケース
相続人はAさんとBさんの2人で、遺産は実家(評価額2,000万円)と預金1,000万円です。Aさんが実家に住み続け、Bさんは預金を受け取る形を考えます。
- 遺産の総額(2,000万円+1,000万円)
- 3,000万円
- 1人あたりの取り分(1/2)
- 1,500万円
- Bさんが預金を受け取った場合の不足(1,500万円−1,000万円)
- 500万円
- AさんがBさんへ支払う代償金
- 500万円
※架空のケースです。不動産の評価額は、査定方法によって異なることがあり、その評価自体が争いになることもあります。
4-4.登記や税金は、司法書士・税理士の領域です
不動産の名義変更(相続登記)は司法書士、相続税の申告や納税は税理士が扱う分野です。この記事では一般的な説明にとどめます。手続の期限などは、それぞれの専門家へご確認ください。
話し合いが止まっている方は、まずご相談ください
初回相談無料・秘密厳守。状況の整理から、今後の進め方のご案内までお受けします。
5.使い込みの疑い:まず取引履歴を確認する
5-1.「使い込み」と決めつける前に、事実を確認する
親の通帳を管理していたきょうだいに対して、「親のお金を使い込んだのでは」という疑いが出ることがあります。ただ、お金が引き出されていたことだけで、不正があったとは言い切れません。医療費・介護費・生活費の支払いに充てられていたり、親本人の依頼で引き出していたりする場合もあるからです。
5-2.預金の取引履歴は、相続人なら請求できるとされています
一般に、相続人は、亡くなった方の預金口座について、金融機関に取引履歴の開示を請求できるとされています。手続や必要書類は金融機関によって異なります。履歴が分かると、いつ、いくら、どのように動いたかを客観的に確認できます。
5-3.確認したあとの進め方
- 履歴の中で、使途が分かる引き出しと、分からない引き出しを分ける
- 使途が分からない部分は、責めずに「教えてほしい」と尋ねる
- 領収書やメモなど、使途の説明資料があれば出してもらう
説明がつかない引き出しが残る場合には、返還を求める法的な手続が検討されることがあります。返還が認められるかどうかは、親本人の同意の有無や使途などによって異なります。
・「あなたが使い込んだ」と断定する言い方は避ける
・通帳や履歴など、客観的な資料をもとに話す
・管理していた側も、早めに記録や領収書を整理しておく
6.話し合いの進め方:同居と遠方の対立も「事実の共有」から

遺産分割の話し合いを「遺産分割協議」といい、相続人全員の合意が必要です。一人でも欠けた状態で成立させた合意は、有効とは認められないことがあります。
6-1.ステップ1:財産と資料を全員で共有する
預貯金・不動産・借金・生前贈与の有無など、分かる範囲の情報をそろえ、全員が同じ資料を見られるようにします。情報が一部の人にしかない状態が、不信感の大きな原因になります。
6-2.ステップ2:それぞれの希望と事情を、順番に聞く
実家に住みたい人、早く現金化したい人、介護の負担を評価してほしい人など、希望と理由を順に出します。遠方で顔を合わせにくい場合は、電話やオンライン会議、メールなど、記録の残る方法も使えます。
6-3.ステップ3:法律上の考え方に当てはめて、案を出す
寄与分や特別受益など、前の章で説明した考え方を使い、「こう分けたらどうか」という具体案を出し合います。案を紙にして比べると、感情から離れて話しやすくなります。
6-4.よくあるケース:同居の長男と遠方の長女
Aさんは母と同居し、数年間、日常の世話をしてきました。遠方に住むBさんは、母の状態を詳しく知らず、「法定相続分どおりに分けたい」と考えています。
最初の話し合いでは、Aさんが「自分ばかり負担してきた」と訴え、Bさんは「聞いていなかった」と反発し、会話が止まってしまいました。
そこで、Aさんが介護の内容を時系列で書き出し、Bさんは母の預金の履歴を一緒に確認しました。事実を共有したことで、金額の主張にとどまらず、「どこまでを寄与として考えるか」を具体的に話し合えるようになりました。
※実在の方を特定しない、架空のよくあるケースです。実際の結論は事情によって異なります。
6-5.合意できたら、遺産分割協議書にまとめる
合意した内容は、書面(遺産分割協議書)に残し、相続人全員が署名・押印するのが一般的です。預金の解約や、不動産の名義変更の際にも必要になります。
7.弁護士が入るタイミングと、協議から審判までの流れ
7-1.弁護士に相談したほうがよいサイン
弁護士が入ることで、対立が悪化するのではないかと心配される方もいます。ただ、次のような状況では、早めに第三者を交えることで、かえって話が進むことがあります。
- 連絡がとれない、または話し合いに応じない相続人がいる
- 感情的になり、顔を合わせると話が進まない
- 寄与分・特別受益・使い込みなど、法律上の主張が絡んでいる
- 不動産の評価や分け方で、意見が大きく分かれている
- 相手方が弁護士を立ててきた
弁護士は、依頼を受けた方の代理人として、相手方との交渉や、調停・審判の手続を任せていただけます。
7-2.協議がまとまらないときの流れ
遺産分割協議(話し合い)
相続人全員で話し合います。弁護士に代理を依頼して進めることもできます。
遺産分割調停
家庭裁判所で、調停委員を交えて話し合います。相手方と顔を合わせずに話を進められるよう、配慮されることがあります。
遺産分割審判
調停でも合意できない場合は審判に移り、裁判官が、事情を踏まえて分け方を判断します。
遺産分割の話し合い自体には、法律上の期限はありません。ただ、長引くと関係者の状況が変わったり、資料が散逸したりするおそれがあります。また、相続開始から10年が経過すると、寄与分や特別受益の主張が原則としてできなくなるとされています。
7-3.当事務所の費用の目安(税込)
遺産分割や遺留分の請求(相続分割・遺留分請求)の費用は、次の2つのパターンから選べます。
| パターン | 着手金 | 報酬金 | 日当 |
|---|---|---|---|
| ① 着手金なし | 0円 | 経済的利益の22% | 11,000円 |
| ② 着手金あり | 330,000円 | 経済的利益の17.6% | 11,000円 |
※経済的利益とは、手続によって実際に得られた金額などを指します。別途、実費がかかります。事案によって異なる場合があるため、詳しくは無料相談でご案内します。費用の全体像はこちらの記事でも説明しています。
8.きょうだい間の相続トラブルに関するよくある質問
Q.兄弟姉妹が相続人になるのは、どんなときですか?
A.亡くなった方に子(子が亡くなっている場合は孫など)も親(祖父母など)もいない場合に、兄弟姉妹が相続人になります。一般に、親の相続では「子ども同士(きょうだい)」が相続人となり、法定相続分は原則として同じ割合です。
Q.親の介護をしていた場合、多く相続できますか?
A.介護が「寄与分」として認められると、相続分が増える可能性があります。ただし、親族として通常期待される程度を超える特別の貢献が必要とされ、認められるかどうかや金額は事情によって異なります。
Q.生前に多くもらっていたきょうだいがいる場合、その人の取り分は減りますか?
A.結婚や住宅購入の資金などの生前贈与が「特別受益」にあたると、その分を遺産に加えて計算し、受け取った人の取り分から差し引く扱いがあります。贈与の内容や、被相続人の意思によって結論が異なることがあります。
Q.きょうだいが親の預金を使い込んだ疑いがあるとき、どうすればよいですか?
A.まず感情的に責めず、預金の取引履歴を確認することが一般的です。相続人であれば、金融機関に取引履歴の開示を請求できるとされています。引き出しが親本人の依頼によるものだった可能性もあるため、履歴を見て事実関係を整理したうえで進めます。
Q.話し合いがまとまらない場合は、どうなりますか?
A.家庭裁判所の遺産分割調停で、調停委員を交えて話し合います。調停でも合意できない場合は審判に移り、裁判官が分け方を判断します。遺産分割の話し合い自体には、法律上の期限はありません。



